「相続登記をしないで、不動産を被相続人名義のままにしておけば、固定資産税を支払わなくて済むのですか」というようなご質問をいただくことがあります。
相続登記がおこなわれておらず、現在の所有者が不明であるため、固定資産税の課税や徴収に支障をきたしているというような事例は現実に増えているようです。このような問題は、所有者不明の土地が増加しているとして広く知られるようになっています。
しかしながら、上記のような問題と固定資産税の支払い義務とは別の話です。相続登記をしなかったとしても固定資産税の納税義務を負わないで済むというわけではありません。
相続登記をしなかったとしても、被相続人が負っていた納税義務は相続人が承継することとなります。
相続登記と固定資産税の納税義務
1.固定資産税の納税義務者
2.相続登記をしていない場合の納税通知書送付先
3.相続人が相続放棄をした場合
1.固定資産税の納税義務者
固定資産税の納税義務者については、地方税法343条で次のように定められています。
- 固定資産税は、固定資産の所有者に課する。
- 所有者とは、土地または家屋については、登記簿(または土地補充課税台帳、もしくは家屋補充課税台帳)に所有者として登記(または登録)されている者をいう。
- 所有者として登記(または登録)されている個人が賦課期日前に死亡しているときは、同日において当該土地または家屋を現に所有している者をいうものとする。
賦課期日とは毎年1月1日です。したがって、被相続人が1月1日よりも前に亡くなっているときは、土地・家屋を相続した相続人が納税義務者となるとされています。
相続人が複数いる場合で、誰が土地・家屋を相続するか決めていないときでも、「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する(民法898条)」とされていますから、相続人全員が当該土地または家屋を現に所有している者にあたるわけです。
そして、被相続人が1月1日よりも後に亡くなっている場合には、被相続人が負っていた納税義務は相続人に承継されます。
結局、誰が不動産を相続するか決まっているかどうか、また、相続登記が済んでいるかどうかとは関係無しに、固定資産税の納税義務は相続人へ承継されるわけです。
2.相続登記をしていない場合の納税通知書送付先
賦課期日までに相続登記が完了していないときは、その土地・家屋については現に所有する人(法定相続人)が納税義務を負います。法定相続人が複数の場合には、納税通知書を受け取り、代表して税金を納める人(固定資産税納税義務者及び代表相続人)を決めることになります。
たとえば、千葉県松戸市の「土地・家屋の所有者がお亡くなりになったとき」のページには次のように書かれています。
なお、ここで届け出た相続人の代表者は、固定資産税に関する手続を代表しておこなうのみであり、相続登記や相続税には関係ありません。つまり、相続人代表者の届出をしても、相続登記や相続税の申告は別途おこなわなければならないのです。
3.相続人が相続放棄をした場合
相続放棄した相続人については、固定資産税の納税義務を負うこともありません。
「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす(民法939条)」とされているからです。
なお、ここでいう相続放棄とは、家庭裁判所へ相続放棄の申述をし受理された場合に限ります。それ以外の方法によって相続放棄することはできず、固定資産税の納税義務から逃れることは出来ませんのでご注意ください。
また、相続放棄した場合は、被相続人が保有していた財産を相続することは一切できません。つまり、相続したくない土地・家屋のみを相続放棄して、それ以外の財産は相続するということは認められないのです。
それでも、被相続人が保有していた財産は一切相続したくないと考えるならば、相続放棄をすることで土地・家屋やその固定資産税の納税義務を承継せずに済むわけです。
相続人の一部が相続放棄をすれば、他の相続人が固定資産税の納税義務を承継しますが、相続人の全員が相続放棄をした場合には納税義務を負う人はいないことになります(相続人不存在の状態)。