数次相続の場合の相続登記では、遺産分割協議書は何通必要になるのでしょうか。「第1次相続、第2次相続と2回の相続があったのだから、それぞれの相続についての遺産分割協議書を作成する必要がある」と言われたのですが?とのご質問をいただきました。

数次相続の遺産分割協議

遺産分割協議は「共同相続人」によりおこないます(民法907条)。たとえば、被相続人に妻と子がいたとすれば、その妻および子が共同相続人となるので、遺産分割協議は被相続人の妻および子によっておこなうわけです。

ところが、遺産分割協議をおこなう前に共同相続人中の一部が死亡してしまった場合には、その者の相続人が他の共同相続人と共に遺産分割協議をすることができます。

上の図では、平成20年に夫が亡くなった時点での共同相続人は、妻、長女、長男の3人でした。しかし、この3人による遺産分割協議をおこなわないでいるうち、平成25年に長男が死亡してしまいました。この場合、長男の相続人である長男の妻、子1、子2が、長男に代わって遺産分割協議に加わることができるのです。

つまり、平成20年に夫が亡くなったときの相続人(第1次相続の相続人)と、平成25年に長男が亡くなったときの相続人(第2次相続の相続人)との間において遺産分割の協議がおこなえるということです。

したがって、上記のケースで被相続人名義の不動産についての相続登記をおこなう際、必要となる遺産分割協議書は1通です。数次相続の相続登記だからといって、それぞれの相続についての遺産分割協議を作成するわけではありません。

遺産分割協議書が複数になるケース

上記のケースとは異なりますが、数次相続による相続登記で2通の遺産分割協議書を提出するケースとしては、第1次相続の相続人の間で既に遺産分割協議書をおこなっていた場合があります。上記のケースでいえば、長男が存命であった平成25年以前に遺産分割協議をおこなっていたということです。

このときに長男が不動産を取得するとの協議が成立し、その協議についての遺産分割協議書を作成していたとすれば、この既に作成済みの遺産分割協議書(第1次相続の相続人が署名押印)と、平成25年に死亡した長男の相続人による遺産分割協議書(第2次相続の相続人が署名押印)との2通により相続登記をおこなうことができます。

ただし、このケースは第1次相続の開始後に遺産分割協議書を作成したものの、その遺産分割協議書による相続登記をしていなかったという場合ですから、現実にはあまり多くない事例でしょう。

仮に、今から第1次相続のみについての遺産分割をし、それに基づく協議書を作ろうとしても、既に亡くなっている長男が遺産を取得するとの協議をおこなうわけにはいきません。したがって、今から2つの相続についての遺産分割協議をおこなうのであれば、遺産分割協議書は必ず1通になります。

数次相続の相続人による遺産分割協議はできるのか

第1次相続の相続人と、第2次相続の相続人との間で遺産分割協議がおこなえることについては、次のような先例があります(昭和29年05月22日 民事甲1037)。

被相続人甲が死亡(昭和25年3月1日)し、その直系卑属及び尊属がないため、甲の配偶者乙が甲の兄弟丙、丁、戊とともに相続をした不動産について、相続登記未了のうちに乙が死亡(昭和27年5月3日)し、乙に直系卑属及び尊属がないため、乙の兄弟A、Bがその権利を相続し、A、Bが丙、丁、戊とともに丙を右不動産の単独取得者とする遺産分割の協議書を申請書に添付して丙から右不動産の相続登記申請があったときは受理してよい。

上記の相続関係を図にすると次のようになります。

第1次相続の相続人である丙、丁、戊と、第2次相続の相続人であるA、Bとによる遺産分割協議書で、丙に対する相続登記がおこなえるわけです。

数次相続による相続登記や、その他の難しい相続登記の手続きは、松戸の高島司法書士事務所へご相談ください。