所有者不明の土地が増えていることが大きな問題になっています。

所有者不明の土地、なぜ増加? 相続時に登記義務なし(2018/1/6 日経電子版)

所有者が誰なのかわからない土地が全国で増えていることが問題になっています。持ち主が不明だと売買や賃貸、開発ができません。そうした土地の面積は「九州より広い410万ヘクタール」との推計を、増田寛也元総務相が座長を務める研究会が公表したほどです。

この記事では、「所有者が不明というのは「相続登記」が済んでいない土地を指しています」と書いていますが、この定義はあまりに乱暴です。

相続登記をするのは義務ではありませんから、自宅不動産が父や祖父の名義のままになっているのは決して珍しいことではありません。しかし、相続登記が済んでおらず父の名義のままの土地を「所有者が不明」と表現するのはさすがにおかしいでしょう。

1.所有者が不明な土地とは?

では、「所有者が不明な土地」とはいったいどういう土地をいうのでしょうか。国土交通省ウェブサイトに「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン」があります。

このガイドラインの初めに「所有者の所在の把握が難しい土地」とは、「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」であると定義しています。

本ガイドラインで扱う「所有者の所在の把握が難しい土地」とは、「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」をいいます。具体的には、以下のような土地を指します。

  • 所有者の探索を行う者の利用できる台帳が更新されていない、台帳間の情報が異なるなどの理由により、所有者(登記名義人が死亡している場合は、その相続人も含む。以下同じ。)の特定を直ちに行うことが難しい土地
  • 所有者を特定できたとしても、転出先・転居先が追えないなどの理由により、その所在が不明である土地
  • 登記名義人が死亡しており、その相続人を特定できたとしても、相続人が多数となっている土地
  • 所有者の探索を行う者の利用できる台帳に、全ての共有者が記載されていない共有地

など

このガイドラインを一般の方が読んで理解するのは難しいと思われますが、まず最初の問題として「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない」とは一体どういう状況なのでしょうか。

2.不動産の所有者はどうやって調べるのか

不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)には、不動産の所有者についての記載があります。しかし、そこに書かれているのは所有者の氏名と住所のみなのです。

誰が所有しているのか分からない土地があった場合、まずはその土地の登記事項証明書を法務局で取得します。どこにある土地か特定できていれば、所在や地番も分かるわけですから、登記事項証明書を取得することは容易です。

登記事項証明書を取得すればそこに住所と氏名が書かれているので、もし、その所有者が存命であり住所と氏名が現在のものなのであれば、所有者が判明し調査は完了です。

3.現在の住所では無い場合

不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)に書かれているのが現住所では無い場合、そこに書かれている住所地で「住民票の除票」を取得することが出来れば、そこに「転出先の住所」が書かれています(死亡している場合は、死亡年月日が書かれています)。

また、住民票の除票が取れれば本籍地を知ることが出来ますから、戸籍謄本や戸籍の附票を取ることにより現住所を把握することが可能となります。

しかしここで問題なのは、「住民票の除票の保存期間は消除された日から5年間とされている」ということです。結局、住民票の除票を取ることにより所有者が判明するというのはごく限られたケースのみであるわけです。

さらに、上記ガイドラインには次のとおり「所有権登記名義人等の住所について」の記述があります。このことからも、登記事項証明書に書かれている所有者の住所から、現在の所有者(またはその相続人)を見つけ出すのが困難なのが分かります。

所有権登記名義人等の住所について
登記記録に記録されている所有権登記名義人等の住所について、必ずしも住民票の住所が記録されているわけではないことに注意が必要です。これは、昭和32年以前は登記の際に住所についての証明書の添付が必要ではなかったため、住民票の住所ではなく本籍や居所などが登記記録に記録されている場合があるためです。なお、昭和32年5月以降は、登記手続の際に住所証明書を添付することとされたため、登記手続時の所有権登記名義人等の住民票の住所が記録されます。
ただし、登記記録に記録された住所から所有権登記名義人等が転居している場合にその変更が登記記録に反映されているとは限らないことに留意が必要です。

4.住民票の除票が取れない場合

住民票の除票が取れない場合、役所等から取得できる書類による所有者の調査はすでに行き詰まったことになります。つまり、登記事項証明書に書かれている住所から転居したり、または、その住所地にて死亡してから5年以上が経っているときには、もう所有者を調べるのは困難になってしまうのです。

結局、不動産登記制度の問題というよりは、住民票の除票の保存期間が5年のみであることが、この問題を極めて困難なものにしているといえます。なお、市町村によっては5年以上前の住民票除票(または、戸籍の附票)が出てくることもありますが、既に廃棄してしまっているものについてはどうにもならないでしょう。

5.聞き取り調査

上記ガイドラインによれば、住民票の除票が取れない場合、次におこなうべきは「聞き取り調査」であるとしています。具体的には次のような調査をおこなうとのことです。

所有権登記名義人等の親族、対象となる土地の近隣住民や集落代表者、共有地である場合には連絡の取れる他の共有者などを対象として、所有権登記名義人等の転居先や連絡先などの聞き取りを行います。また法定相続人や関係者等を確認する場合は、寺院の保有する過去帳を閲覧することも有効です。
また、所在不明の土地所有者についての聞き取り調査を行う場合は、まずは地元区長など集落代表者や民生委員など地域に詳しい人に対して聞き取り調査を行うと効率的です。それでも所在不明の場合は、近隣住民や親族などにあたっていくことになります。

結局は特別な調査方法などが存在するわけでは無く、地元の人に聞いてみるなどの方法によるしかないというわけです。「集落代表者や民生委員など地域に詳しい人」とありますが、地域のつながりがどんどん希薄になっていく今、とくに都市部などでは誰に聞いても全く手がかりが得られないようなケースも多いでしょう。

6.司法書士がこれまでおこなってきた業務では

これまでの司法書士業務では、土地所有者の親族の方から相続登記をしたいという相談を受けることにより調査等を開始します。

したがって、その土地の所有者がどこの誰であるかが分からないというケースよりは、長年に渡り相続登記をしていなかったため、何代にもわたり相続が開始している。そのため、関係者(相続人)の人数が多すぎたり、全く面識の無い相続人がいたりして手続きが困難になっているというのがほとんどです。

このような場合であっても、土地所有者(被相続人)についての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本などから全ての相続人を確定させることは可能ですが、これは相続人の1人でも判明していることが前提です。このような調査が可能となるのは、戸籍制度がある日本ならではだといえます。

上記とは違い、「そこにある誰が持っていたのかも分からない土地」の相続人を調べる場合、住民票の除票が取れなければ現地調査などによるしかないというのは司法書士であっても同様です。調査によりどれだけの問題解決に至るのかは分かりませんが、非常に大変な問題であろうことは間違いないでしょう。