遺言により特定の人へ不動産を相続させようとする場合、遺言の中に不動産の表示も記載するのが通常でしょう。

たとえば、次の遺言例のように「遺言書の有する下記の不動産を、妻○○に相続させる」とした後に、不動産の表示を記載するわけです。

第○条 遺言者は、遺言書の有する下記の不動産を、妻○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。

1 土地

所在 松戸市新松戸一丁目

地番 100番地

地目 宅地

地積 100.00平方メートル

2 建物

所在 松戸市新松戸一丁目100番地

家屋番号 100番

種類 居宅

構造 木造瓦葺2階建

床面積 1階50.00平方メートル
    2階50.00平方メートル

そして、不動産の名義変更をするときには、この遺言書を添付して、遺言による相続登記をおこないます。

遺言書に書かれていない不動産の取り扱い

それでは、「遺言者は、遺言書の有する下記の不動産その他一切の財産を、妻Aに相続させる」との遺言をしていた場合で、遺言書に明記されていない不動産があったときの取り扱いはどうなるでしょうか?

結論としては、妻Aが上記の遺言を添付し、そこに記載されていない不動産についての相続登記の申請をしても受理されるはずです。

その遺言書を見ただけでは、どうしてその不動産が明記されていないかは明らかになりません。もちろん、今から遺言者の真意を確認することは不可能です。

重要でない少額な財産だから書かなかったのか、もしくは、重要なのにもかかわらず書き漏らしていた可能性もあります。または、遺言書を作成した後に、新たに不動産を取得したという場合もあるでしょう。

重要でないから「その他一切の財産」に含めてしまったが、妻に相続させる意思は当然にあったというならば、妻がその不動産を相続することに何ら問題はないでしょう。

しかし、重要であるのに書き漏らしていたとか、遺言書の作成後に取得した不動産であったような場合には、妻がその不動産を相続することは遺言者の意思に反する可能性もあります。

しかしながら、不動産登記において登記官がおこなうのは形式的審査です。よって、その他一切の財産と書かれている以上は、それがどれだけ多額で重要だったとしても、その他一切に含まれると解釈するしかないでしょう。

ただし、このような遺言は争いの元となる可能性もあります。遺言書を作成する際には、不動産など重要な財産については、それぞれを明記した上で、残りの「その他一切の財産」を特定の人に相続させるとするのが安心でしょう。

参考として、公正証書遺言で次のような記載をしている例があります。

このような記載をしておけば、遺言に記載されているかどうかに関わらず、全ての不動産を妻に相続させることはできますが、相続させようとする不動産のすべてを可能な限り記載しておくべきだということです。

第○条 遺言者は、遺言書の有する下記の財産を、妻○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。

1.不動産
(1)土地

所在 松戸市五香一丁目
地番 10番1
地目 宅地
地積 100.00平方メートル

(2)建物

所在 松戸市五香一丁目10番地1
家屋番号 10番1
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階50.00平方メートル
    2階50.00平方メートル

2.前記1に記載の不動産のほか、相続開始時において有するその他の不動産、動産、現金、預金、貯金、有価証券、その他一切の財産