認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が失われている相続人は自分自身で遺産分割協議をおこなうことができません。そこで、不動産の名義変更をするため遺産分割協議書を作成するときには、その相続人のために成年後見人の選任をする必要があります。

そして、成年後見人が本人(被後見人)に代わって、遺産分割協議書へ署名押印することになるわけですが、ここで注意すべきなのは「成年後見人は、本人のために、本人の財産を適切に維持し管理する義務」があることです。

本人の利益を損なうような行為は許されませんから、遺産分割協議においても、本人に法定相続分以上の財産を取得させるのが原則です。そのため、成年後見人は、本人以外の相続人がすべての財産を相続するというような遺産分割協議に応じることはできません。

成年後見人選任の必要がない通常の遺産分割協議では、相続人全員が合意すれば、相続人のうちの1人が全ての財産を相続する内容であってもまったく問題ありません。実際にも、配偶者がすべての財産を相続するとの遺産分割協議がなされるのもよくあることです。

ところが、認知症などにより判断能力が失われている相続人がいる場合、その相続人のために成年後見人を選任したとしても、法定相続分と異なる割合で遺産を相続することは困難になるのです。

相続人中の1人が不動産を相続しようとする場合

自宅不動産のほかも複数の不動産を所有していたり、多額の銀行預金があるようなときは、各相続人が法定相続分どおりに遺産相続するという分割協議をすることも可能でしょう。

また、自宅以外にさしたる財産が存在しないようなときに、相続人中の1人がその不動産を相続しようとする場合、その代償としてほかの相続人へ金銭の支払いをする方法があります(代償分割)。代償金を受け取ることにより、結果として法定相続分以上の財産を確保できるならば、成年後見人の義務に反することはありません。

しかし、代償金の支払いをするのも困難なのであれば、最悪の場合、自宅不動産を売却することにより法定相続分どおりに遺産を分割しなければならないことも考えられます(換価分割)。

結局、認知症などにより判断能力が失われている相続人がいるときには、成年後見人を選任したとしても、望んだとおりの遺産分割をすることができないケースも多いのです。しかしそれは、本人(被後見人)の利益を守るとの観点からすれば当然だともいえます。