遺贈を原因とする所有権移転登記では、権利証(正確には「登記済証」または「登記識別情報」)が必要書類となります。

登記済証を紛失してしまったときなどは、登記済証を添付せずに登記申請をすると、法務局から登記義務者に対して事前通知がなされます。そして、事前通知に対して「この登記の申請の内容は真実です。」との回答をすることにより、登記済証(登記識別情報)の提出が無い場合であっても登記が実行されるわけです。

遺贈による所有権移転登記で権利証がないとき(目次)

1.遺贈による所有権移転登記の事前通知

2.所有権登記名義人住所変更が必要なときの登記申請人

3.遺贈の登記で相続人への通知はおこなわれるのか

1.遺贈による所有権移転登記の事前通知

遺贈を原因とする所有権移転登記の場合の事前通知は、遺言執行者に対しておこなわれます(遺言執行者がいないときは、相続人全員に対して事前通知がおこなわれます)。

公正証書遺言では遺言執行者を指定しているのが通常だと思われますが、自筆証書遺言の場合には遺言執行者についての記述が無いこともあります。この場合、家庭裁判所で遺言執行者の選任をしてもらうことができます(受遺者自身を遺言執行者の候補者として申立てをすることも可能)。

受遺者が遺言執行者が選任されれば、遺贈による所有権移転登記を「登記権利者兼亡○○遺言執行者」として実質的に単独でおこなうことが可能です。そして、この場合には事前通知も遺言執行者である受遺者に対しておこなわれますから、相続人全員の協力を必要とすることなしに登記手続きをすることができます。

2.所有権登記名義人住所変更が必要なときの登記申請人

遺贈者の登記簿上の住所と、死亡時の住所が異なる場合には、遺贈による所有権移転をする前に登記名義人住所変更の登記をしなければなりません。

この場合には、登記簿上の住所と死亡時の住所のつながりが分かる住民票(戸籍の附票等)が必要です。また、登記名義人住所変更の登記申請は、遺言執行者、遺贈者の相続人、受遺者のいずれによってもおこなうことができます。

遺言執行者の指定のある遺贈による所有権移転登記の前提として、当該不動産の表示変更の登記の申請人は、遺言執行者又は遺贈者の相続人(相続人全員又は保存行為としてその1人)のいずれでも差し支えなく、受遺者も債権者代位により申請することができる(登研145号)

3.遺贈の登記で相続人への通知はおこなわれるのか

ここまで書いてきたとおり、自筆証書遺言であり遺言執行者の指定がないという場合であっても、家庭裁判所での遺言書検認を済ませてから、遺言執行者選任申立をおこなうことにより、相続人の協力を一切必要とせずに遺贈による所有権移転登記をすることができることになります。

ただし、遺言書検認の申立をした際には、家庭裁判所から相続人全員に対して検認期日についての通知が送付されます。したがって、相続人に内緒で遺贈する旨の遺言を書いていたような場合であっても、それが自筆証書遺言であれば相続開始時において相続人の知るところになるわけです。

これが、公正証書遺言であれば検認は不要なので家庭裁判所から相続人へ通知が行くことはありません。また、法務局からの事前通知も遺言執行者に対して送付されますから、裁判所や法務局から通知が行くというようなことは全く無いことになります。