本来であれば相続人としての地位を有していたはずの人でも、一定の重大な事情があるときには、相続人となることができない場合があります。これが相続欠格の制度で、相続人となることができない「相続人の欠格事由」には次の5つがあります。

1 故意に被相続人、または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者。

2 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者(ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない)。

3 詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者

4 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

5 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者

被相続人(または、先順位もしくは同順位の相続人)を殺害するなど重大な罪を犯したことが該当するのは当然として、「相続に関する被相続人の遺言書の偽造、変造、破棄、隠匿をした」ことも相続人の欠格事由に当たるのであり、現実にも問題になることが多いです。

なお、相続人の欠格事由がある場合、被相続人の意思とは関係なく、当然に相続人の資格を失うことになります。この点が、被相続人の意思に基づいて、推定相続人の相続権を奪おうとする、排除の制度と異なります。

相続欠格と遺産分割手続き

相続人の欠格事由に該当する行為があったときには、相続人となることができませんから、遺産分割協議の当事者にもなりません。

もしも、ある相続人の行為が欠格事由に該当するか否かが争いになったときには、訴訟手続き(相続権または相続分不存在確認訴訟)において欠格事由の有無が判断されることになります。

相続欠格と代襲相続

被相続人の子が、相続人の欠格事由の規定に該当したときは、その者の子がこれを代襲して相続人となります(民法887条)。親が相続人の欠格事由に該当したとしても、その子どもに罪があるわけではないですから、代襲相続するわけです。

また、被相続人の兄弟姉妹が相続人となるはずだった場合に、その兄弟姉妹が相続人の欠格事由の規定に該当したときも、その子どもが代襲相続します(民法889条2項)

参考条文

この記事で解説している「相続人の欠格事由」、および「相続欠格と代襲相続」についての民法の条文は次のとおりです。

(相続人の欠格事由)

第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。

一  故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

(子及びその代襲者等の相続権)

第887条 被相続人の子は、相続人となる。

2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条(相続人の欠格事由)の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

3前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)

第889条  次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。

一  被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。

二  被相続人の兄弟姉妹

2  第887条第2項の規定は、前項第2号の場合について準用する。