不動産登記についての先例や質疑応答のうち、遺言に基づく所有権移転登記に関連するものを選んで掲載しています。内容の正確性については一切の保証をしません。また、ご質問も承っておりません。

遺言書

登記の申請書に添付された自筆証書による遺言書の家庭裁判所の検認期日の審問調書に、相続人中の一人が、「遺言書は遺言者の自筆ではなく押印は遺言者の使用印ではないと思う」旨の陳述をした旨の記載があるときは、遺言内容による登記の申請に異議がない旨の当該陳述者の証明書(印鑑証明書添付)の添付を要する(平成10.11.26
民三第2275第三課長通知)。

自筆証書によって遺言をする場合には、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないが、遺言者が遺言書のうち日付以外の部分を記載して、その8日後に当日の日付を記載して遺言書を完成させたときは、特段の事情のない限り、右日付が記載された日に成立した遺言として適式なものと解するのが相当である(最判昭和52.4.19)。

遺言者が当該遺書の内容についてあらかじめ十分承知していたと認められる特段の事情がない限り、公証人からの遺書内容の確認に対して、遺言者が「それでよい。」と言っただけの発言だけでは公正証書遺言の要件である「口授」があったということはできない(大阪高判9.3.28)。

被相続人が生前に時期を異にして複数通の遺言をしていたところ、最後にした遺言で従前の遺言内容を覆して相続人の一人に全部の財産を相続させる旨の遺言が、被相続人は相当程度の認知症が進行していて本件遺言当時には遺言能力を有していたとは認められないとして無効とされた(東京地判平成18.7.25)。

遺言執行者は、遺言に係る財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有し、相続人は、遺言執行者の右権限と抵触する限度において右財産の処分権限を失い、右財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができないのであり、遺言執行者が存在する場合には、相続人の一人が右財産中の建物につき他の相続人を被告として、自己が贈与によって所有権を取得したとして所有権移転登記手続を請求して提起した訴えは、不適法である(東京地判平成3.6.27)。

「遺言者はその所有の不動産を甲に相続させる。遺言者は乙を遺言執行者に指定する。」旨の遺言がなされた場合、登記実務において甲は相続開始後右不動産につき相続を登記原因とする所有権移転登記をすることができ、このことに関する限り、乙は遺言執行者としてなすべき事柄は何もなく、右遺言に基づき甲に対し所有権移転登記手続をすべき義務を負っていると解することはできない(東京高判平成3.3.28)。

特定不動産を特定の相続人甲に相続させる旨の遺言により、甲が単独でその旨の所有権移転の登記手続をすることができるが、遺書執行者は、遺言の執行として右の登記手続をする義務を負うものではない(最判平成7.1.24)。

特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言がされた場合、右相続人に右不動産の所有権移転登記を取得させることは、遺言執行者の職務権限に属する(最判平成11.12.16)。

受遣者が遺言執行者に指定されている場合でも、登記の申請は債務の履行に準ずベきものであるから、遺言執行者は、同時に受遺者として登記の申請をすることができる(大正9.5.4民事307局長回答)。

注)遺言により遺言執行者が選任されていない場合でも、家庭裁判所へ遺言執行者選任申立をして、受遺者を遺言執行者に選任してもらうことが可能です。この場合、登記権利者(受遺者)と登記義務者(遺言執行者)を兼ねて単独で登記申請ができることになります。

相続人の一人に対し遺産の一部を相続させる旨の遺言があるにもかかわらず、遺言執行者の同意を得ることなく、共同相続人が、遺言の趣旨とは異なる遺産分割協議をし、登記を経由した場合、右の協議は、遺産分割方法の指定のない財産について遺産分割協議をするとともに、遺産分割方法の指定がなされている土地については、相続人の一人が本件遺言によって取得した取得分を相続人間で贈与ないし交換的に譲渡する旨の合意をしたものと解するのが相当であり、その合意は、遺言執行者の権利義務を定め、相続人による遺言執行を妨げる行為を禁じた民法の規定に抵触するものではなく、私的自治の原則に照らして有効である(東京地判平成13年6月28日)。

遺言にもとづく所有権移転登記(相続、遺贈)

「次女乙にB不動産を遺贈する。三女丙にC不動産を遺贈する。その他の財産は長女甲に管理させる。」旨の自筆遺言証書(検認書添付)を添付し、被相続人名義のA不動産について、長女甲への「相続」を原因とする所有権移転登記の申請は受理されない。「遺贈」を原因とする移転登記の申請であっても同様(登研612号)。

遺言公正証書に相続人Aに全財産の2分の1の財産を相続させ、残りの2分の1についてはXに贈与する旨の遺言がされた場合において、Xに対する遺贈の登記がされない間にこの遺言書を添付し、被相続人名義の不動産について、Aから所有権の2分の1の相続登記の申請があったときは受理されない(登研523号)。

共同相続人の各々に、相続財産の一部をそれぞれ贈与する旨の記載のある遺言書に基づく、所有権移転の登記の登記原因は遺贈である(登研429号)。

遺言書に、相続人A、B及び相続人以外の者Cに、各3分の1ずつ財産を贈与する旨の記載がある場合の登記原因は、受遺者が相続人であっても、遺贈を原因とする(登研369号)

遺言書の文言と登記原因

相続人に対してであっても「遺贈する」との文言が使われている場合には、登記原因は原則として「遺贈」となります。その例外として、相続人に対し相続財産の全部を包括遺贈する旨の遺言をし、その処分を受ける者が相続人の全員である場合には、相続を登記原因とするとの先例があります。

被相続人が相続人に対し相続財産の全部を包括名義で贈与する旨の遺言があるときは、その処分を受ける者が相続人の全員である場合には、その所有権移転の登記は、相続を登記原因としてなすべきである。(昭和38年11月20日民事甲第3119号・民事局長回答)

この先例でも「相続財産の処分を受ける者が相続人中の一部の者である場合には、遺贈による所有権移転登記を申請しなければならない」とされています。