代償分割とは、相続人中のある人が自らの法定相続分以上の遺産を取得する代わりに、他の相続人に対してその法定相続分に対する不足分相当額を金銭などで支払うことによりおこなう遺産分割の方法です。

家事審判規則では「家庭裁判所は、特別の事由があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物をもってする分割に代えることができる(家審規109条)」とされています。

この特別の事由に該当するか否かは以下のような基準で判断されます(大阪高裁決定昭和54年3月8日)。

  1. 相続財産が農業資産その他の不動産であって細分化を不適当とするものである。
  2. 共同相続人間に代償金支払いの方法による遺産分割をすることについて争いが無い。
  3. 相続財産の評価額がおおむね共同相続人間で一致している。
  4. 相続財産を承継する相続人に債務の支払い能力がある。

上記は家庭裁判所での遺産分割審判の場合の話ですから、遺産分割協議の場合に適用されるものではありませんが、代償分割を選択する場合の基準として参考になると思います。

実際の遺産分割協議においても、相続財産に占める自宅不動産(土地、家)の割合が非常に大きいため、現物(遺産そのもの)により公平に分割するのが難しいことが多くあります。相続人中の1人が自宅不動産を相続すると、他の相続人が銀行預金や銀金などその他の財産を全て相続したとしても、法定相続分を大幅に下回るような場合です。

このようなとき、公平な遺産分割をするために不動産を共有にする場合もありますが、それでは遺産分割を巡る問題を先送りにしているだけです。実際にも、さらに相続が開始することによって、不動産を処分することが困難人なってしまうケースもあります。

そこで、1人が自宅不動産を相続する代わりに、他の相続人に金銭の支払いをすることができれば、公平な遺産分割が可能となります。ただし、現実には一時にそのような大きなお金を用意するのが難しいために、代償分割がうまく行かないことも多いと思われます(代償金を分割払いにするとの遺産分割協議も可能)。

また、被相続人である父と同居していた長男が、その家を自分の名義にしてそれまで通り住み続けるためだけに、他の相続人にお金を払うのが納得できないというような事情により合意に至らないこともあるでしょう。

            遺産分割協議書

 被相続人 A(平成○年○月○日死亡) 
 最後の本籍・住所 千葉県松戸市新松戸一丁目1番地

 上記被相続人の遺産について、共同相続人間において遺産の分割について協議をした結果、次のとおり決定した。

1 次の不動産は、相続人Bが取得する。

  (不動産の表示 省略)

2 相続人Bは、相続人Cに対し、前項の遺産取得の代償として金○円の債務を負担することとし、これを平成○年○月○日限り、Cの指定する銀行口座に振込送金の方法により支払う。

  (以下省略)