未成年者と、その親権者である親(父または母)とが共同相続人である場合、遺産分割協議をおこなうには、家庭裁判所でその未成年者のための特別代理人を選任してもらう必要があります。

民法826条1項により「親権を行う父または母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない」とされているからです。

たとえば、上図のような場合です。被相続人である夫の遺産分割協議をおこなうには、未成年者である長男のために特別代理人選任が必要です。そして、共同相続人である「妻」、「長女」、および「長男の特別代理人」の3者により遺産分割協議をするわけです。

1.誰が遺産分割の内容を決めるのか

上記の規定などからすれば、家庭裁判所により選任された特別代理人が長男に代わって遺産分割協議に参加するように思えるかもしれません。つまり、特別代理人が他の相続人と話し合うことにより遺産分割協議内容を決定するのではないかということです。

しかし、実際の手続きの流れはそのようにはなっておらず、家庭裁判所により特別代理人が選任された時点で分割内容は決定されており、特別代理人が遺産分割の内容に関与する余地はないのが通常だと思われます。

裁判所へ特別代理人選任申立をする際には遺産分割協議書(案)の提出が求められており、裁判所はその協議内容が未成年者の利益を害することがないのを確認してから、特別代理人選任の審判がなされるからです。つまり、裁判所が認める遺産分割の内容でなければ、特別代理人の選任をしてもらえないということです。

そして、裁判所から交付される特別代理人選任審判書は遺産分割協議書(案)とホチキス留めし契印されています。不動産や銀行預金の相続手続きをおこなう際には、特別代理人選任審判書の提出も求められますから、そこに書かれている協議内容の通りにしか遺産相続がおこなえないわけです。

したがって、裁判所によって特別代理人が選任されてから、特別代理人を交えた遺産分割協議により遺産分割の内容を決定するわけではないのです。特別代理人が選任された時点で協議内容は決まっており、特別代理人は既に完成している遺産分割協議書へ署名押印をするのみであるわけです。

2.裁判所における審理の対象について

なお、本来は家庭裁判所が遺産分割協議書などの提出を求めるのは、利益相反行為に該当するかを判断するものであって、その内容が子の利益からみて相当であるかを判断するためではありません。今でもそのように書かれている書籍なども見かけます。

そうであれば、裁判所が遺産分割内容に関与することはなく、裁判所が子の利益を代弁するものとして適格性があると認めた特別代理人が、他の相続人と協議をすることによって遺産分割協議をするということになるはずです。そうであれば、特別代理人の責任は重いですし、その適格性は慎重に判断されるべきです。

しかしながら、実際の裁判所の審理では、利益相反に該当することのみが確認できれば特別代理人を選任するとの取り扱いはおこなわれていないのが通常だと思われます。遺産分割協議書(案)や、個々の遺産の評価額等が分かる資料の提出も求め、遺産分割協議の内容が子の利益から相当であるかを判断した上で特別代理人選任の審判がおこなわれています。

そのため、特別代理人が分割内容にかかわる余地はないのですから、その適格性について厳しく審査する必要などはなく、申立人が候補者として挙げた人(未成年者の祖父母、叔父伯母など)がそのまま選ばれるのが通常であるわけです。

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