このページは、「相続登記の署名証明は単独形式でも良いのか」について書いています。署名証明(サイン証明)による相続登記の一般的な解説については、「相続人中に海外在住者がいて印鑑証明書が取れない場合」のページをご覧ください。
相続登記をする際の遺産分割協議書には、相続人全員が署名し実印により押印します。そして、その実印についての印鑑証明書の添付も必要となります。
海外に住んでいて日本に住民登録をしていない方については、日本の印鑑証明に代わるものとして署名証明が利用されます。
外務省ウェブサイトの在外公館における証明のページで、署名証明について次の通り説明されています。
さらに、署名証明の種類について次の通り解説があります。
形式1の説明に「申請者が領事の面前で署名した私文書」とありますが、遺産分割協議書がここでいう私文書にあたります。
よって、形式1の場合には、「署名証明」(在外公館が発行する証明書)と、領事の面前で署名した「遺産分割協議書」を綴り合わせて割印が行われるわけです。
この形式によれば、署名証明と遺産分割協議書が一体になっていますから、遺産分割協議書へ署名したのがたしかに本人であることが証明されています。
これに対して、形式2の場合には、署名する私文書(遺産分割協議書)を在外公館へ持参する必要は無く、「署名証明書のみが単独で交付」されます。
そこで、遺産分割協議書への署名(及び拇印)については、後から自分で行うことになります。
ここで問題なのは、形式2の場合には遺産分割協議書と署名証明とが、それぞれ単独で存在する状態となってしまうことです。
印鑑証明書の場合には、遺産分割協議書に押された印鑑が実印であるか、容易に照合することができます。ところが、「遺産分割協議書の拇印」と「署名証明の拇印」が同一人物によるものかを照合するのは簡単なことではありません。
そのため、相続登記に使用する署名証明については形式1の方法によるのが確実なので、事前に用意した遺産分割協議書を在外公館に持参して手続きをするようお願いしているところです。
単独型の署名証明で登記が出来た例
一般的な解説としては上記が結論となるわけですが、ご依頼の時点で既に単独型の署名証明が用意されていた場合にはどうするべきでしょうか。
まずは、当事務所で遺産分割協議書を作成した後に、形式1の方法による綴り合わせ方の署名証明を取っていただくのが第一の選択肢です。
もしくは、管轄法務局にまずは照会をおこなってみて、単独型では不可だという場合には、署名証明を取り直すことを承諾していただいた上で、手続きを進めることも考えられるでしょう。
この点については、実際に手続きを行った司法書士からも、法務局より形式1の署名証明を求められたとの話がありますし、事前照会をしたとすれば形式1にして欲しいとの回答がなされる可能性が高いと思われます。
さらには、法務局への事前照会無しに、単独型の署名証明を添付して登記申請をした場合に、補正になった例もあるとの記述も見かけます。
前置きが長くなりましたが、当事務所では単独型の署名証明による相続登記を申請した経験があります。このときは事前照会をおこなわずに登記申請をしましたが、補正を求められること無く無事に登記が完了しています。
現実問題として、事前に選択できるならば形式1の署名証明を取っていただくのが間違いありませんから、司法書士が代理人となっている場合に、単独型の署名証明で相続登記申請をおこなった事例はあまり多くないようにも思います。
そんなわけで、実際には単独型の署名証明でも差し支えないとしている登記官も多い可能性があるかもしれないとしても、司法書士としては形式1(綴り合わせ型)の署名証明をご用意くださるよう強くお願いするしかないわけです。