数次相続の場合で、最終相続人が1人であるときの相続登記についてです。

数次相続で最終相続人が1人の場合の相続登記

相続関係は上記のとおりです。平成30年に甲が死亡した時点での相続人は、配偶者乙と、甲乙間の子である丙の2人でした。

そして、被相続人甲についての相続登記をおこなわない間に、令和元年に乙が死亡したことで、丙が甲の唯一の相続人となっています。

この場合に、被相続人甲名義の不動産を、唯一の相続人である丙が取得できることは間違いないとして、どのような登記手続をしなければならないのでしょうか。

甲の死亡により、配偶者乙と甲乙の子丙が共同相続人となったが、相続登記未了の間に乙が死亡した場合において、甲から丙に相続を原因とする所有権の移転の登記をするためには、丙を相続人とする遺産分割協議書又は乙の特別受益証明書等を添付する必要があり、これらの添付がない場合には、乙丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記をした上で、乙の持分について丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記をすべきである(登研758)。

上記の質疑応答によれば、甲から丙に対して直接に相続を原因とする所有権移転登記をするためには、丙を相続人とする遺産分割協議書または乙の特別受益証明書等が必要だとされています。つまり、次のような事情が存在することが前提とされるわけです。

  • 乙の生前に、乙と丙との間で、丙を相続人とする遺産分割協議が成立していた。
  • 甲乙の生前に、乙が甲から特別受益に相当する生前贈与を受けていた。

上記のような事情が存在しない場合には、次の2件の登記をすべきだとされています。

  1. 乙丙への相続を原因とする所有権移転登記
  2. 乙の持分について、丙への相続を原因とする所有権移転登記

この2件の相続登記の申請書は次のようになります(申請書の記載は、説明に必要な箇所のみ)。

登記申請書

登記の目的 所有権移転

原因 平成30年×月×日 ・・・甲の死亡年月日

相続人(被相続人 甲)
   住所
   持分2分の1 亡乙
   住所
     2分の1 丙

(以下 省略)

登記申請書

登記の目的 乙持分全部移転

原因 令和元年×月×日 ・・・乙の死亡年月日

相続人(被相続人 乙)
   住所
   持分2分の1 丙

(以下 省略)

上記2件の相続登記をおこなう際、1件目の登記については、租税特別措置法第84条の2の3により登録免許税が一部非課税となります。非課税となるのは、亡乙が登記を受ける部分の土地についての登録免許税です。

たとえば、土地の固定資産評価額が1,200万円、建物が500万円だったとすると、2件の相続登記についての登録免許税は次のようになります。

(1件目)
課税価格 金1,100万円(内訳 土地 金600万円 建物 金500万円)
登録免許税 金44,000円
租税特別措置法第84条の2の3第1項により一部非課税

(2件目)
課税価格 金850万円(内訳 土地 金600万円 建物 金250万円)
登録免許税 金34,000円

上記2件の相続登記により、登録免許税は合計78,000円かかることになります。

もしも、甲から丙へ、1件の登記で直接に相続を原因とする所有権移転登記をした場合、登録免許税は68,000円(1,700万円×4/1000)で済みます。

それでも、登録免許税の一部非課税が無かったとすれば、1件目で68,000円、2件目で34,000円の合計102,000円の登録免許税がかかるのですから、負担はだいぶ軽減されているわけです。

租税特別措置法第84条の2の3第1項 個人が相続(相続人に対する遺贈を含む。以下この条において同じ。)により土地の所有権を取得した場合において、当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さない。