不在者財産管理人選任の申立をしました。不動産の相続登記をするために遺産分割協議をしたいが、相続人中の1人が海外に住んでおり、手続きへの協力が得られないという事例です。

あまりない事例だと思われますので、備忘録的に記しておきます。なお、事実に基づいた事例ではありますが、ブログ記事にするに際しては実際の事実関係とは少し変えて書いています。

相続人中の1人が海外に住んでいるという場合であっても、遺産分割について争っているのであれば、海外在住相続人が日本における代理人(弁護士)を立てて、遺産分割調停をおこなうことも考えられるでしょう。

ところが今回のケースでは、遺産分割について争っているわけではなく、海外在住相続人がただ手続きに協力してくれないのです。自分にも遺産を寄越せといっているわけではなく、何を言っても反応がないというような状況です。具体的には次のような感じです。

  • 長年にわたって海外に住んでおり、一時的にであっても日本に帰ってくる見込みはない。
  • 数年前までは確実に住んでいたはずの住所は分かるが、電話番号、メールアドレスなどは不明なので連絡手段は手紙のみ。

数年前までは、手紙を送ればときおり返事があったものの、今では全く返事が届かなくなりました。しかし、今でも住所は変わっておらず、存命であることは確かだと思われます。

現住所まで行ってみたとしても会って貰えるかも分かりませんし、さらに、領事館へ行ってサイン証明の交付手続きなどをしてくれるとは到底考えられません。

そこで、不在者財産管理人選任の申立を検討することとなりました。

不在者とは、「従来の住所又は居所を去った者」(民法25条1項)ですが、言葉通りただ単に「従来の住所などを去った」だけでなく、容易に帰来する見込みのない者であることとされています。

そして、その人の現在の住所や居所が容易に分かる場合や、容易に連絡が取れる場合には不在者ではないと解されているようです。

そうであれば、今回のケースでの海外在住相続人が不在者にあたるかが問題ですが、現在の住所は分かっているものの、連絡を取るのは極めて困難なわけです。

このような状況で、日本における財産の管理人を置いていないのですから、不在者財産管理人の制度の対象となるはずだと判断しました。

不在者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ問合せをし、文書による事情説明などをした結果、不在者財産管理人選任が可能であるとの回答が得られたため申立をおこないました。

申立の添付書類の「不在の事実を証する資料」にあたるような公的書類が用意できなかったので、裁判所からの求めに応じて、親族による詳細な陳述書等を提出しています。

現時点では、不在者財産管理人が選任された段階であり、財産管理業務がどのように進むのか、また、どのようにして財産管理業務が終了するのかは不明です。それらの話については、そのうちまた記事にするかもしれません。