法定相続人が1人のみであるときには、その唯一の相続人がすべて遺産を引き継ぎます。したがって、自分の他には相続人が存在しないことを明らかにするだけで、相続登記やその他の遺産相続手続をすることが可能です。つまり、遺産分割協議書など、相続人間の合意を証するための書類は不要だということです。

1.法定相続人が1人であることの証明書類

唯一の相続人が単独で相続登記申請をするために、法定相続人が1人であることの証明は次のようにおこないます。

1-1.被相続人の戸籍謄本等の収集

誰が相続人であるかを明らかにするためには、まず、被相続人が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)を取得します。

(1) 子(または、子の代襲相続人)が相続人の場合

被相続人が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本等により、被相続人の子(または、代襲相続人)の全てが判明するので、被相続人の子が相続人である場合には、自分自身が唯一の相続人であることが証明できます。

(2) 直系尊属が相続人の場合

被相続人が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本等により、相続人となるべき子(または、その代襲相続人)がいないことが判明します。そこで直系尊属である、自分自身が唯一の相続人であることが証明できます。

なお、異なる親等の直系尊属が複数いる場合には、親等が近い方のみが相続人となります。たとえば、母と祖母が存命であれば、母のみが相続人となります。

(3) 兄弟姉妹が相続人の場合

第3順位相続人である兄弟姉妹が唯一の相続人である場合には、被相続人に相続人となるべき子(および、その代襲相続人)がおらず、また、存命の直系尊属が存在しないことを明らかにする必要があります。

そこで、最低限でも被相続人が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本等に加え、直系尊属の死亡の記載のある除籍謄本等も必要となります。先順位の相続人が1人も存在せず、かつ、兄弟姉妹(または、その代襲相続人)が存在しないことを明らかにして、はじめて自分自身が唯一の法定相続人であることが証明できるわけです。

兄弟姉妹が唯一の法定相続人となる場合、それを証明するために必要な戸籍謄本の収集も大変な作業です。そこで、相続登記の手続きとあわせて、戸籍謄本等の収集も司法書士におまかせいただくのが通常です。

1-2.他の法定相続人が全て相続放棄している場合

そもそも、法定相続人となる人が1人であるときの他、自分以外の法定相続人であった方が全て相続放棄している場合にも、結果として相続人が1人のみであることになります。この場合、上記と同じく戸籍謄本等を取得することで、法定相続人であった人の全てを明らかにします。

そのうえで、相続放棄している方については、手続きをおこなった家庭裁判所で、相続放棄申述受理証明書の交付を受けます。

2.法定相続人が1人の場合の相続登記手続き

法定相続人が1人の場合には、そのことを明らかにする戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本などを提出することにより、その唯一の法定相続人により単独で相続登記をすることができます。

また、相続放棄者がいる場合には、相続放棄申述受理証明書もあわせて提出するのは先に述べたとおりです(相続登記の手続をするためには相続放棄申述受理通知書ではなく、「受理証明書」でなければならいのが原則です)。

ただし、現在では「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会に対する家庭裁判所からの回答書」、または「家庭裁判所からの相続放棄申述受理通知書」でも認められるように取り扱いが変更になっているようです。

相続の放棄があったことを証する情報として、「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会に対する家庭裁判所からの回答書」又は「「家庭裁判所からの相続放棄申述受理通知書」が添付されているときは、その内容が相続放棄申述受理証明書と同等の内容が記載されているものと認められるものであれば、これらを登記原因を証する情報の一部として提供することができる(登研808号)。

相続放棄申述受理証明書の交付申請は、申述人自身が行うのが通常ですが、利害関係人(共同相続人、被相続人に対する債権者など)から行うことも可能です。

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