(最終更新日:2018/07/05)

亡くなられた方(被相続人)が不動産を所有していた場合、その名義は誰のものに変更するのでしょうか。ケースごとにわけて解説します。

1.遺言書がある場合

遺言書により、不動産を誰に相続(または、遺贈)させるかが指定されている場合には、その遺言に従うのが原則です(ただし、この場合でも、相続人の全員が合意しているのであれば、遺言の内容と異なる登記をすることも可能ではあります)。

また、遺言書がある場合には、不動産を相続した人が、他の相続人の協力を得ること無く相続登記をすることが可能です。けれども、遺言内容が遺留分を侵害している場合には、遺留分減殺請求を受けることもあります。

2.遺言書が無い場合

2-1.法定相続人が1人の場合

遺言書が無く、法定相続人が1人の場合には、その唯一の相続人が全ての遺産を相続します。したがって、誰の名義にするかを検討する余地は無く、遺産分割をおこなうこともありません。

ここでいう法定相続人が1人の場合には、他の相続人がすべて相続放棄したために、相続人が1人になったときも含みます(この場合、相続登記をする際に、他の相続人に全員についての相続放棄申述受理証明書が必要です)。

なお、法定相続人が1人であっても、遺言書により相続人以外の第三者への遺贈がされている場合には、受遺者(遺贈を受けた人)の名義に変更することになります(遺贈による所有権移転登記)。

2-1.法定相続人が2人以上の場合

遺言書が無く、法定相続人が2人以上の場合には、誰が不動産を相続するかを遺産分割協議により決定する方法と、法定相続人の法定相続分どおりに共有名義で登記する方法との2通りがあります。

2-1-1.遺産分割協議による場合

遺産分割協議による相続登記では、法定相続人の全員による話し合いにより、誰が不動産を相続するかを決定します。
法定相続人全員が合意すれば、相続人中で誰の名義に変更しても差し支えありません。したがって、被相続人の配偶者では無く、子の名義に変更することももちろん可能です。
また、相続人中の1人が単独で相続するのでなく、2分の1ずつなど共有の名義にすることもできます。
遺産分割協議による相続登記をするには、法定相続人全員が署名押印(実印)し、印鑑証明書を添付した、遺産分割協議書が必要です。

2-1-2.法定相続による場合

法定相続による相続登記では、法定相続人全員の共有名義で、その相続分どおりに登記をします。
たとえば、被相続人の妻と、長男、長女が法定相続人である場合には、妻2分の1、長男、長女がそれぞれ4分の1ずつ、3人の共有名義で登記するということです。
法定相続による相続登記では、遺産分割協議書の作成が不要なこともあり、他に比べて手続きが容易です。そのため、誰が不動産を引き継ぐかの話し合いが付かない場合に、法定相続による相続登記が選択されることもあります。
しかし、後になって不動産を売却したり、担保設定などの処分をする際には、共有者全員の合意により手続きをする必要があります。結局は、問題の先送りに過ぎないこともありますし、共有者に相続が開始すればさらに権利関係が複雑になってしまいます。
そのため、法定相続による相続登記をおこなうのは、通常は極力避けるべきだといえます。

参考)法定相続による相続登記の注意点

法定相続分による相続登記では、相続人の一人から単独で登記申請することもできます。つまり、他の相続人の同意を得ることなく登記手続をしてしまうことも可能なのです。
しかし、単独申請により登記してしまう場合には大きな問題があります。それは、相続人の一人から単独申請した場合、登記識別情報通知が申請人にしか発行されないことです。つまり、他の相続人は所有権の登記名義人にはなるものの、登記識別情報通知の交付を受けることはできないのです。
登記識別情報通知は、かつての登記済証(権利証)と同様に、不動産の処分や、担保の設定などによる登記手続をする際に必要なものです。
登記識別情報が無くても所有者(共有者)であることに変わりはありませんが、手続きにおいて余分な手間や費用がかかることになります。
よって、法定相続分どおりの登記をする場合であっても、全員が登記申請人になる(または、委任状を出す)ことが必須だと考えるべきです。