相続放棄をした人は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。相続放棄をするときは、放棄しようとする相続人本人が家庭裁判所で手続きをする必要があります。

相続登記(不動産の名義変更)をする際に、相続放棄の手続きが必要になることは多くないですが、被相続人に債務(借金)がある場合などで、相続人中の一部が相続放棄する場合もあります。

このページでは、相続登記のために相続放棄をおこなうケースについて、また、相続放棄をすることによって相続人が変動する場合など、注意すべき点について解説します。

相続放棄の手続きについては、相続放棄の基本(相続登記の相談室)をご覧ください。

1.相続放棄と遺産分割協議

2.相続放棄をするとどうなるのか

1.相続放棄と遺産分割協議

被相続人が所有していた不動産を、相続人中の1人の名義に変更する場合、遺産分割協議によるのが通常です。遺産分割協議とは、相続人の話し合いによって、遺産の分割の仕方を決めることです。

「被相続人名義の下記の不動産は、相続人○○が取得する」というような内容の協議書を作成し、相続人全員が署名押印をします。そして、その遺産分割協議書を添付して、法務局へ相続登記の申請をするわけです。

遺産分割協議によれば相続登記をすることができるので、相続登記をおこなうことだけが目的である場合、相続放棄の手続きをする必要はありません。

相続放棄をするのは、多くの場合、被相続人に債務がある(または、債務のある恐れがある)ときです。たとえば、不動産などの財産もあるが借金もあるような場合に、1人の相続人を残して他の相続人は相続放棄します。そうすることで、1人の相続人が負債を含む全財産を相続することになり、他の相続人は借金の支払い義務を負わなくなるわけです。

ただし、相続放棄したことで思わぬ結果を招くことが無いよう、誰が相続人になるかなど理解したうえで手続きをおこなう必要があります。たとえば、子の全員が相続放棄すると、被相続人の兄弟姉妹が相続人になりますから、「被相続人の妻に全財産を相続させるために子が相続放棄する」というのは誤りであるわけです。

2.相続放棄をするとどうなるのか

相続放棄をした人は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、相続放棄した人は、不動産などの財産や、借金などの負債の一切を引き継ぐことが無くなるわけです。

ここで注意すべきは、ある相続人が相続放棄することで、別の人が相続人になるケースがあることです。

相続放棄による相続人の変動

上の図で、被相続人Aの相続人は、妻B、子C、子Dの3人です。この場合に、相続人中の1人が相続放棄すれば、残りの2人が相続人になります。

妻Bが相続放棄すれば、子C、子Dの2人が相続人となり、それぞれの相続分は2分の1ずつです。また、子Cが放棄した場合も、妻B、子Dが2分の1ずつの相続権を持つことになります。

また、長男である子Cを残して、妻B、子Dが相続放棄することで、被相続人がおこなっていた事業を引き継ぐ長男にすべての遺産(財産、負債)を集中させることもできます。

しかし、子C、子Dの2人が相続放棄した場合には、妻にすべての遺産が引き継がれるとの結果にはなりません。子のすべてが相続放棄をすれば、相続権が後順位であった人が相続人になります。

本例の場合、第2順位相続人である直系尊属(父母、祖父母)がすべて亡くなっているため、第3順位である妹Fが相続人になります。つまり、子2人(C、D)が相続放棄をすると、妻B、妹Fの2人が相続人になるわけです。

したがって、被相続人の妻(配偶者)へ全財産を相続させるために、子のすべてが相続放棄するという方法は使えないわけです。妻に全財産を相続させるためには、妻および子2人での遺産分割協議によるしかありません。

この場合、「妻が被相続人の全財産を取得する」との遺産分割協議によっても、子たちは相続債務の支払い義務から逃れることはできません(ただし、債権者の承諾があれば、個々の債務について1人の相続人が引き受けるものとすることは可能です)。