遺産分割協議書を作成して相続人全員が署名押印しました。署名押印した相続人全員の印鑑証明書も取得済です。

その後、不動産についての相続登記をしないでいるうちに、相続人のうちの1人が海外へ住所移転しています。この場合、相続登記をするのに当たって何か特別な手続きなどが必要でしょうか?

なお、この海外在住相続人は不動産を取得しないものとします。

結論からいえば、すでに用意済みの遺産分割協議書と印鑑証明書があれば相続登記をすることができるので、新たにサイン(署名)証明などを取得するなどの特別な手続きは不要です。

相続登記申請をする際に法務局へ提出する印鑑証明書には期限がありませんから、遺産分割協議書と印鑑証明書を用意してから長期間が経過していても問題なく登記がおこなえます。

印鑑証明書がない場合

ただし、遺産分割協議書への署名押印はおこなっているものの、印鑑証明書の交付を受けていなかった場合は問題です。

海外在住者であっても、居住している国の日本国大使館等で印鑑証明書を発行して貰える場合は、新たに印鑑証明書を取得するという方法もあるでしょう。

しかし、印鑑証明書を取り扱っていない場合には、サイン(署名)証明などによることになります。この場合、すでに署名押印済の遺産分割協議書を持参するのではなく、署名および拇印を領事等の面前でしなければなりません。

署名(および拇印)証明(在アメリカ合衆国日本国大使館)
署名および拇印は,ご本人が大使館事務所(担当官の面前)において行っていただく必要があります。すでに署名されている書類の証明は出来ませんので,書類は未記入のままお持ちください。

そうなると、再び遺産分割協議書を作成し、相続人全員による署名押印をすることが必要になってしまいます。

遺産分割協議書を作成し相続人全員が署名押印したときは、印鑑証明書も用意しているのが通常でしょう。それに加えて、印鑑証明書を取らずに海外へ転居してしまうというケースは稀なはずです。

よって、問題になるケースは通常ないと思われますが、実際に起こってしまったら厄介なことになるかもしれません。

相続関係説明図への住所の記載はどうするのか

遺産分割協議後に相続人が海外へ住所移転しているときでも、相続関係説明図へ記載する住所は遺産分割協議書及び印鑑証明書に書かれている住所で差し支えないでしょう。

厳密にいえば現住所を記載すべきかもしれませんが、不動産を取得しない相続人についての住所証明書は提出不要ですから特に問題が生じることはないわけです。

ところが、被相続人と、海外在住相続人が同一の戸籍に入っており、その戸籍附票を登記申請時に提出する場合はどうすればよいでしょうか?つまり、戸籍の附票には住所として「アメリカ合衆国」のように書かれている場合です。

海外在住相続人について、通常は相続関係説明図に遺産分割協議書の住所を書いていれば問題ないのが、このケースでは海外へ転居しているのが戸籍の附票により判明しているわけです。

どのようにすべきか少し迷ったものの、結果としては相続関係説明図の住所には「アメリカ合衆国」とのみ記載して無事に登記が完了しました。これが正確な住所を記載するとなれば、在留証明などの提出を求められたかもしれません。

いつでも同様の取り扱いがなされるかは不明ですから、登記申請前に法務局へ確認する方が間違いないでしょうが、今回はとくに何の指摘もありませんでした。