結論からいえば、相続登記をするに当たって権利証は必要書類ではありません。よって、権利証がなかったとしても相続登記の手続きにはとくに支障はありません。

土地や家屋(建物)の権利証とは

売買や相続により土地の所有権を取得したとき、また、家屋(建物)を新築した場合などには、権利証(けんりしょう)が作成されます。

なお、土地や建物の権利証のことを、正式には登記済証(とうきずみしょう)といいます。不動産の権利そのものを証する書面ではなく、あくまでも、「登記済」であることを証する書面だからです。けれども、ここでは一般的な呼び方である権利証に統一します。

また、平成17年の不動産登記法が改正された後に、新たに不動産の名義人になっているときには、権利証ではなく登記識別情報通知(とうきしきべつじょうほうつうち)が作成されていることもあります。このときも、この記事をお読みいただくにあたっては、権利証の場合と同じように考えていただいて差し支えありません。

権利書はいつ作られるのか?

権利証が作成されるのは、新たに不動産の所有権を取得したときだけです。土地であれば、相続、贈与、売買などによって、新たに所有権を取得することになります。また、建物については相続などのほかに、新築による場合もあります。

新たに土地や建物の所有権を取得したとき以外には権利証が発行されませんから、たとえば、古くなって汚れてしまった場合であっても権利証の再発行を受けることはできません。これは、紛失してしまったときでも同様ですから、不動産を所有しているのに権利証が存在しないということもあり得ます。

権利証を紛失したからといって、不動産の所有権を失うことはありませんから、そこに住んでいる限りにおいてはとくに問題になることは通常ありません。裏を返せば、権利証がなくてもとくに支障が無いから、相続開始まで権利証紛失に気付かなかったともいえます。

権利書はどんなときに必要か?

権利証が必要なのは、売買、贈与などにより他人に名義変更(所有権移転登記)をするとき、また、金銭の借入れにともない抵当権などの担保権を設定するときです。これらの手続きをする際、不動産の所有者が権利証を提出することになります。

権利証を提出するのは、それが不動産の所有者でなければ持っていないはずの書類だからです。つまり、権利証を差し出すことによって、不動産所有者がその所有権を失ったり、担保権を設定されることに同意していることを表そうとするのです。

そのため、不動産の名義人が手続きに関与しない相続登記では、権利証の提出を求められていません。自宅に保管してある権利証を相続人が持参したとしても、それが被相続人(不動産の名義人)の意思を表していることにはならないからです。したがって、相続登記で権利証を必要書類としても意味がないわけです。

相続登記で権利証をご用意いただく理由

当事務所に相続登記をご依頼いただく場合、ご相談時に権利証もお持ちいただくことをお勧めしております。権利証は重要書類としてすべてを保管されていることが多いです。そのため、お持ちくださった権利証を確認することで、被相続人の所有不動産のすべてを把握することができます。

不動産を所有されているときは、固定資産税が課税されているのが通常ですから、固定資産税の納税通知書や評価証明書によって所有不動産を確認できます。しかし、私道(公衆用道路)として使用されている場合で、固定資産税がかかっていないときなどに漏れてしまう恐れがあります。

そういうときでも、ご自宅にある権利証のすべてを確認することで、所有不動産の全てをリストアップできる可能性が高くなります。権利証を持ち歩くことを不安に感じる方もいらっしゃるかと思います。しかし、相続開始後に権利証だけを手に入れても、不動産の名義変更をすることはできませんから過剰な心配は不要です。