法定相続による所有権移転登記と、遺贈による所有権移転登記を連件で申請した事例です。登記手続きをする前に、家庭裁判所に対して、自筆証書遺言の検認申立、および遺言執行者の選任申立をおこなっています。

一つ一つの手続きはそれほど難しいものではありませんが、すべてを滞りなく確実に進めるのは容易ではありませんでした。実際の事例はもっと複雑だったのですが、相続関係を大幅に簡略化して解説します。

法定相続登記後の遺贈登記

被相続人Aの相続関係は図のとおりですが、妻Bは「遺言書の有する全ての財産を孫Dに遺贈する」との遺言を作成していました。

平成20年にAが死亡したときには、相続人は妻Bおよび長男Cで、それぞれの法定相続分は2分の1ずつでした。しかし、被相続人Aの遺産についての分割協議をしないままに、平成25年に妻Bが死亡してしまったのです。

上記のとおり、BはDに「全ての財産を遺贈する」との遺言がありますから、BがAから相続していた財産も全てDに引き継がれることになります。そうであれば、Aが所有していた不動産を、CおよびDの共有名義にするには、どのような登記をすれば良いのでしょうか。

なお、Bの子であるCには遺留分がありますから、上記内容の遺言があったとしても、CがDに対して遺留分減殺請求をすることは可能です。しかし、Cが遺留分を主張しないのであれば、Dが全財産の遺贈を受けることはもちろん可能です。

死者名義への、相続による所有権移転登記

まず、結論から申し上げると、Aから、CおよびDの共有名義に直接の所有権移転登記をすることは出来ません。

DはAから相続しているのではく、BがAから相続したものを、さらに遺贈によって取得しているのですから、その権利移転の経緯を省略して登記をおこなうことは許されないのです。

そこでまずは、Aから、妻Bおよび長男Cの共有名義に、法定相続による所有権移転登記をします。申請書の記載は次のようになります(主要部分のみ)。

登記の目的 所有権移転
原因 平成15年○月○日相続
相続人 (被相続人 A)
     持分2分の1 亡B
       2分の1 C

ところで、この登記をする場合に、司法書士への委任状に登記申請人として署名押印すべきなのは誰でしょうか?

長男Cが申請人となるのは当然として、亡B名義への所有権移転登記についての申請人となるのは、Bの相続人である必要はなく、包括受遺者(兼遺言執行者)であるDのみで差し支えないと考えられます。

なお、Bの遺言書に、遺言執行者の指定がない場合には、家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらうことができますが、このとき、遺言執行者候補者をDにすることもできます。

そうであれば、受遺者自身が遺言執行者として登記手続などをすることができますから、相続人の協力を得なくても手続きを進められることになります。

本例では、Bの相続人はCのみですから、相続人が申請人となるべきだったとしても問題が生じることはないでしょう。しかし、受遺者から相続人に対して協力を求めるのが難しいケースでは、誰が申請人となるかは重要です。

遺贈による所有権移転登記

上記の法定相続による所有権移転登記に続けて(連件で)、遺贈による所有権移転登記をおこないました。この登記は、受遺者兼遺言執行者であるDが登記権利者兼登記義務者として単独で申請することができます。

受遺者であるDが遺言執行者となっているため、法定相続と遺贈の登記の2件とも、Bの相続人に関与してもらうことなく、Dが手続きをおこなえたわけです。

なお、遺贈による所有権移転登記の、申請書の記載は次のようになります(主要部分のみ)。

登記の目的 B持分全部移転
原因 平成25年○月○日遺贈
権利者 持分2分の1 D
義務者 亡B