被相続人が被保険者、特定の相続人が受取人になっている生命保険に加入していた場合、保険金受取人である相続人はその固有の権利として死亡保険金を受け取ります。

つまり、被相続人に対して支払われた死亡保険金を相続するわけではなく、保険契約に基づいて保険会社から相続人に対して死亡保険金が直接支払われるのです。

したがって、この場合の死亡保険金は相続財産に含まれませんから、遺産分割の対象ともなりません。保険金受取人として指定されている相続人のみが、死亡保険金を受け取ることになります。

保険金を受け取ることができない相続人からすれば、「被相続人が保険契約者となり、被相続人自身の財産により保険料を支払っていた」のだから、死亡保険金が相続財産に含まれると考えたくなるのももっともです。

しかし、相続財産になるはずであった現金や預金を保険料とすることで生命保険に加入してしまえば、それはもはや相続財産に含まれなくなってしまうわけです。ただし、どのような場合であっても、保険金請求権が保険金受取人の固有財産と認められるかといえば、そうとは限りません。

下記に引用するのは、2014/12/6付け日本経済新聞電子版の記事です。

何でも相続できるわけじゃない 保険金など対象外 遺産とのバランス欠けば例外も(2014/12/6日本経済新聞 電子版)
死亡保険金の額があまりにも多く、分割できる財産が極端に少ないようなケースです。バランスを著しく欠くなら、相続人の間で対立が深刻になるのは必至です。最高裁も、到底認めることのできないほどの不公平が生じている場合は、保険金を相続財産に含めることを例外的に認めるべきだとしています。

最高裁平成16年10月29日決定では、次のような判断を示しています。「死亡保険金請求権が特別受益に準じて持戻しの対象となる」ということは、つまり、生命保険の死亡保険金を相続財産に含めた上で、遺産分割をおこなうこととするわけです。

死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条(特別受益者の相続分)の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。