相続登記申請における被相続⼈の同⼀性を証する情報についての先例です。
最初に確認しておくと、被相続人についての、本籍の記載のある住民票除票(または、除籍等の附票)が取得でき、そこに登記記録上の住所が記載されているのであれば、それだけで被相続人の同一性を証する情報となります。
この住民票除票(または、除籍等の附票)に記載の住所は、最後の住所のみでなく、従前の住所であっても被相続人の同一性は認められます。
したがって、所有権の登記名義人である被相続人の登記記録上の住所が戸籍の謄本に記載された本籍と異なる場合であっても、上記により被相続人の同一性が認められるならば、それ以外の情報の提供について検討する必要はありません。
よって、この先例は、「保存期間経過により被相続人の住民票除票等が取得できない」、または、「取得可能な住民票除票等に登記記録上の住所の記載がない」というような場合についてのものだと考えます。
被相続人の同一性を証する情報として住民票の写し等が提供された場合における相続による所有権の移転の登記の可否について(平成29年3月23日 民二175(民二174)
相続による所有権の移転の登記(以下「相続登記」という。)の申請において、所有権の登記名義人である被相続人の登記記録上の住所が戸籍の謄本に記載された本籍と異なる場合には、相続を証する市区町村長が職務上作成した情報の一部として、被相続人の同一性を証する情報の提出が必要であるところ、当該情報として、住民票の写し、戸籍の附票の写し又は所有権に関する被相続人名義の登記済証の提供があれば、不在籍証明書及び不在住証明書など他の添付情報の提供を求めることなく被相続人の同一性を確認することができ、当該申請に係る登記をすることができる。
上記の記載によれば、所有権の登記名義人である被相続人の登記記録上の住所が戸籍の謄本に記載された本籍と異なる場合には、(1)住民票の写し、(2)戸籍の附票の写し又は(3)所有権に関する被相続人名義の登記済証を提供すれば、不在籍証明書及び不在住証明書など他の添付情報の提供は不要であるとしています。
これをそのまま理解すると、登記記録上の住所が戸籍の謄本に記載された本籍と異なる場合でも、所有権に関する被相続人名義の登記済証を提供するのみで、被相続人の同一性を確認することができると読めます。
この点について、千葉地方法務局からの回答によれば、「所有権に関する被相続⼈名義の登記済証(権利証)のみで被相続⼈の同⼀性を証する情報とすることはできない。これまでどおりの取り扱いである」とのことです。あくまでも、不在籍証明書及び不在住証明書など他の添付情報が無くても被相続人の同一性が確認できる一例を示したものであると捉えるべきのようです。
ただし、登記記録上の住所と本籍地が同じ場合には、住民票の写し、戸籍の附票の写し又は所有権に関する被相続人名義の登記済証の提供は要しないとのことです。相続登記の際、被相続人の住民票の除票(または、戸籍の附票の除票)の保存期間が経過していて取得できないことも多いですが、登記記録上の住所と本籍地が同じであれば被相続人の同一性を確認する情報の提供は不要であることが明確になりました。
さらに、登記記録上の住所と符合する本籍の表示は、最後の本籍のみでなく、従前の本籍との符合によっても同一性は認められます。
よって、登記記録上の住所と符合する本籍の表示と、従前の本籍とが符合する場合にも、それだけで被相続人の同一性を証する情報と認められるので、住民票の写し、戸籍の附票の写し又は所有権に関する被相続人名義の登記済証の提供は要しないことになるでしょう。
被相続人の同一性を証する情報は、登記記録上の住所との関連性を明らかにすることができれば足り、被相続人の登記記録上の住所と符合する本籍の表示は、最後の本籍のみでなく、従前の本籍との符合によっても同一性は認められます。また、被相続人の登記記録上の住所と符合する住民票または戸籍の附票の住所の表示は、最後の住所のみではなく、従前の住所であっても被相続人の同一性は認められます(登研831号133頁)。




