被相続人である父が妻との死別後に再婚している場合、父の遺産の分割協議をする際には、誰が遺産を引き継ぐべきかについてよく考える必要があります。
上図の例で法定相続人となるのは、先妻(昭和60年に死亡)との間に生まれた長女と長男、および後妻(平成10年に婚姻)の3人です。したがって、遺産分割についての話し合いはこの3人でおこなうことになります。
長男および長女と後妻の関係が良好なのであれば、父が亡くなるまで連れ添った後妻が、父の遺産を相続することに異論がないということもあるでしょう。そこで、被相続人の妻が全財産を相続するとの遺産分割協議を成立させたとします。
先妻との子と、後妻の親族関係(相続権はあるのか?)
この場合に、後妻が亡くなり相続が開始したときには、誰が相続人となるのでしょうか?
まず、父が再婚した場合でも、その子たちと再婚相手(後妻)との間に、自動的に親子関係が生じることはありません。したがって、父の後妻が亡くなったとき、先妻との間の子たちは相続人にはなりません。
この場合で、父と後妻の間に子がいれば、その子が相続人となりますが、本例では子がいません。そこで、後妻に兄弟姉妹(または、その代襲者)がいれば、その兄弟姉妹等が相続人となります(後妻には存命の直系尊属がいないものとします)。
つまり、後妻の相続が開始することにより、父が保有していた財産が、後妻の親族(兄弟姉妹など)の元へ渡ってしまうのです。そうなれば、父が先祖から引き継いだ「○○家」の財産が、全て失われることにもなりかねません。
父の遺産分割協議をおこなう時点で、次の相続のことも考えておかないと、このように予期せぬ事態が生じることがあるわけです。
後妻の遺産を引き継ぐ方法
いったん後妻が引き継いだ財産を、先妻との子たちが相続するための第一の方法は、先妻との子たちと後妻とが養子縁組をすることです。養子の相続権は実子と同等です。よって、本例のケースでも、後妻と養子縁組をしていれば、養子として後妻の相続人となります。
子たちが幼いうちに父が再婚したような場合では、後妻と養子縁組をすることにより法律上の親子関係を生じさせるのが適切であるケースが多いでしょう。
また、後妻との間に親子関係を生じさせることなく、たんに遺産相続をすることのみが目的であれば、父の遺産を相続した後に、後妻が遺言書を作成することも有効です。
この場合、相続人でない人に財産を引き継がせるのですから、「相続させる」ではなく「遺贈する」との遺言になります。具体的には、前妻との間の子たちに対して「全ての財産を遺贈する」という内容の遺言をするわけです。
こうしておけば、養子縁組をすることなしに遺産を引き継ぐことができます。もしも、後妻に兄弟姉妹がいる場合でも、兄弟姉妹は遺留分がありませんから遺留分の減殺請求をされる心配もありません。
繰り返しになりますが、何らの対策をしていなかったとすれば、先妻との子たちは、父の後妻の財産を相続する権利は一切ありませんので要注意です。
なお、ここで解説したのは「父の財産を後妻が引き継いだ場合」についてですが、父が亡くなった際の遺産分割において、安易に後妻へ全財産を相続させてしまうのではなく、子たちが引き継ぐべき財産を取得するものとしておけば、後妻の相続開始時になって問題が生じることはないかもしれません。